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サクラメント滞在写真集 Ⅱ

Seson 2

Written by Matsutora in Sacramento 25th October 2012

（アメリカ編）

　ゴールドラッシュは1848年1月24日に農場主ジョン・サッター（スイス人、サクラメントで最初の西洋人の入植者、サッターの砦主）の使用人ジェームズ・マーシャルがアメリカ川の上流のコロマ（サクラメントから５８ｋｍ）で砂金を発見したことから始まった。現場監督だったジェームズ・マーシャルが、アメリカ川沿いに建設していた製材所の放水路で輝く金属の欠片を見つけ、サッターのところに持って行き、二人は欠片が金であることに気がついた。二人は内密にして置きたいと思ったが、しかし、噂は直ぐに広がり始め、1848年3月にサンフランシスコの新聞社主で商人のサミュエル・ブラナンが金の発見を嗅ぎつけた。ブラナンは大急ぎでシャベルやバケツなどの金探鉱用物資を全て買い占めて自分の店舗でそれらの販売の準備が整うと、金を入れた小瓶を掲げながらサンフランシスコの通りという通りを闊歩して、「金だ！金だ！アメリカ川から金だ！」と叫んだ。その声に、カリフォルニアで農業を始めて運試しをしていた多くの人々がこぞって金を探す事を決断し採掘者になった。

　当時カリフォルニアはアメリカ合衆国の州というよりは、むしろメキシコのアルタ・カリフォルニアの一部だった。しかし、金発見の直後の９日後（1848年2月2日）に調印されたグアダルーペ・イダルゴ条約により米墨戦争が終結し、コロマを含めたアルタ・カリフォルニアの残りはアメリカ合衆国に割譲された。つまり発見当初はメキシコ領だったのである。メキシコがもっと早くこの金を発見していたならば世界の歴史は大きく変わっていたかもしれない。

　発見者のジェームズ・マーシャルは数奇な運命をたどった。彼は1810年、4人兄妹の長男として生まれていたが、1843年に父フィリップが死去するとニュージャージー州を出て西へ向かい、ミズリー州で農業を始めたがマラリアにかかり、医者の忠告でミズーリ州から去り西へ移動し、流れ着いたサクラメントでサッターと出会い、サッターの製材工場建設の工場の業務を統括することになり、その勤務中に金を発見するのである。金発見に関するニュースはすぐに世界中に達し、多くの人がカリフォルニアに押し寄せ、マーシャルは土地を追い出された。1857年にコロマに戻りブドウ園を始めたが結局失敗。その後、金鉱で金を探し始めたが何も見つからず破産した。1872年、カリフォルニア州政府はマーシャルが歴史上の重要な役割を果たしたことに対して年金を与えたが、それも2年間だけだった。1885年8月10日、カリフォルニア州ケルシーで死去。遺体はコロマに運ばれ、ブドウ園を所有していた場所に葬られた。アメリカ川の支流を見晴らすことができる丘に墓がある。1890年5月に記念碑が建てられた。記念碑の上に金の発見場所を示したマーシャルの像が立っている。1927年、カリフォルニア州政府は、ブドウ園があった1エイカーの区画を「Marshall Gold Discovery State Historic Park（マーシャル金発見州立歴史公園）」と命名した。

　雇い主のジョンサッターもゴールド・ラッシュとの関わりでカリフォルニアの隅々にまで名を馳せたが、貧窮のうちに生涯を閉じた。サッターの入植当時、サクラメントはメキシコ領だったので、彼は1840年に8月29日にメキシコ市民となった。それから、6月8日には彼は198km²の土地所有権利証書を受け取った。米墨戦争でサクラメントはアメリカ合衆国の手中に収まった。サッターはまず、独立した「カリフォルニア共和国」の樹立の支援をしたが、連邦軍にサッターの砦（サッターの居城のようなもの）の指揮権を奪われた。その後、すぐにジェームズ・マーシャルが金を発見し、サッターは極秘で発掘するように企てていたが、商人で新聞業者である、サミュエル・ブラマンの大宣伝で、たくさんの人々がにわかに押し寄せ、サッターが働いている周辺の全ては破壊された。彼は全てを失ったのである。そして他界した。　

　調べてみると、マーシャルやサッターのように金の発掘に血眼になった人々のなかから富豪は生まれていない。全く金が採掘できなかった者も多い。その上、慣れない重労働で12人に一人が死んだという記録もある。また、採掘者の多くはカルフォルニアに血縁地縁もない男の単身者が多かったので、もし多少の金塊を手にしたとしても、酒と女とばくちで瞬く間に消えたということも多かったらしい。新聞社主で商人のサミュエル・ブラナンのように、“血眼になった人々”を相手に商売をした商人の中から多くの富豪が誕生した。ブランの店では、1個20セントで仕入れたバケツが15ドルで売れたそうだ。実に、原価の150倍の値段でも、飛ぶように売れ、ブラナンはわずか9週間で3万6000ドルを手にした。その後彼はサンフランシスコで最初の百万長者になり、当時のサンフランシスコの土地の5分の1を所有し、サンフランシスコ議会の議長までになった。現在、サンフランシスコに彼の名前に因んだ公園まで残されている。

　アメリカ全土からカリフォルニアに集まってきた採掘者は、採れた金（といっても、一人一人は少ない量）をおカネに換えながら生活し、金を探すという生活を長く続けていた。彼らには稼いだお金を預けておく銀行が必要だったし、故郷で待っている家族に「仕送り」のおカネを送金することも必要だった。そして、家族へ送る手紙、家族からの励ましの便り、荷物の受け渡しなど・・・、採掘者が求めているのは「情報」であり、「物流」だった。そこに目をつけて大当たりしたのは、ウェルズとファーゴの二人組だった。彼らは、米国でも初めての「安全・確実な送金・輸送のシステム」を作り上げた。現在、ウェルズ・ファーゴはカリフォルニア最大の金融機関であり、全米第4位の銀行である。ブラックカードで有名な「アメリカン・エキスプレス」は彼らが作ったものである。

　また、丈夫なジーンズが採掘者の心をわしづかみにし世界的な企業に成長したリーバイスもゴールドラッシュが転機だった。さらに、リーランド・スタンフォードは、1858年にニューヨークからサクラメントへ移住し、ゴールドラッシュ時の雑貨商として事業を繁栄させ、1863年セントラルパシフィック鉄道を創設し大陸横断鉄道時代に貢献し、名門スタンフォード大学まで創設した。

　夢を見る当事者よりも、夢の協力者のほうが“夢”をつかむのかもしれない。言い方は悪いかもしれないが、自分ではやらず、他人にやらせて上前をはねた形ではあるが、この構図は現代でも生きている。パチンコで破産したという話は聞いても、パチンコで儲けて家を建てたという話は聞いたことがない。パチンコ屋が儲ける仕組みになっている。さらに、パチンコ屋も次々と高価な新型パチンコ台を新装入れ替えさせられるのでパチンコ台の製造メーカーが一番もうかっているという話である。つまりパチンコ屋は鵜のようなものらしい。そうすると客はアユになるのか・・・・。それはともかく、株権売買にしろ、商品商場にしろ、そんなうまい話をなんで自分がやらず他人にやらせるのだ。いいこともあるかもしれないが、危険性が大きいのを知っているのだ。他人にやらせて、その人が儲けても損してもその人から手数料をいただくほうが安定していい収入が得られる。それらの斡旋業者が儲けるようになっている。が、しかしゴールドラッシュで６００ドルを獲得し、その金を有効に使って、日本に帰国し、外務大臣までになった稀有な例外もあるにはある。ジョン万次郎である。

（日系移民編）
　　ジョン万次郎
　日本人として初めてアメリカ本土の土を踏んだ土佐出身の漂流民であるジョン万次郎が、帰国の資金を得るため、1849年にゴールドラッシュに沸くサンフランシスコへ渡り、サクラメント川を蒸気船で遡上し、鉄道で山へ向かったという話は有名である。彼は数ヶ月間、コロマ近くの金鉱にて金を採掘する職に就き、そこで得た600ドルの資金を持ってホノルルに渡り、更に1850年12月17日、上海行きの商船に乗り込み、購入した小舟「アドベンチャー号」も載せて日本へ向け出航した。その後の活躍は日本人の知るところである。

若松コロニー
　ジョン万次郎がコロマ近くで懸命に砂金採りをした19年後、日本初の日系移民の団体がゴールド・ヒル（サクラメントから60キロ、コロマから3.6キロ）にやってきた。彼らは自分たちの入植地に若松コロニーと名付け希望に満ちた門出を切ったが、結局は悲劇に終わった。

　 1868年、日本の戊辰戦争は、政府軍（勤皇の志士）と幕府軍（新撰組）との戦いは凄惨を極めた。幕軍に加担した会津の藩士たちは自らの信ずる正義のために戦い、敗北した。その窮した藩士たちの中には、日本に絶望し海外に希望を託す者が少なからず現れた。松平氏23万石の城下町、会津若松から遠くアメリカへと旅立った40人のグループがいた。かれらこそ若松コロニーの開拓民であった。当時、日本にジョン・ヘンリー・シュネル（John Henry Schnell）という外国人がいた。彼は会津藩お抱えの武器商人であったが、会津藩が戦争に敗れたので、会津藩を見限り、新天地アメリカに日本人の村を建設しようともくろんだのだ。日本の茶と絹を、金鉱発掘の好景気に沸くカリフォルニアで作ればきっと成功する、と考えたのだ。それには人手がいる。彼は、敗戦によって前途を失った武士とその家族たちを説得し、たくさんの茶の実と蚕を携えて船に乗った。それに日本人である彼の妻と娘、子守も加わった。1869年、明治維新の翌年である。新政府の正式な許可は取ってはいない。アメリカで養蚕や茶の栽培をしようとした日本人はあるいは彼らが最初ではなかったかもしれないが、このようにコロニー（植民開拓地）を開いたのは確かに第一号であっただろう。

　 5月20日、サンフランシスコに到着した一行は、その北東にある金鉱の町ゴールド・ヒル（コロナ近く）に向かった。そこは、その１９年前にカリフォルニアで初めて金が発見された地で、当時は隆盛を極め、一攫千金を夢見る「フォーティーナイナーズ（49ers）」と呼ばれる採掘士たちがどっと押し寄せたのだが、その頃にはそれも下火になりつつあった。シュネルはゴールド・ヒルの農地の600エーカーを5千ドルで買い取り、日本人たちを住まわせた。良い土と水に恵まれたこの土地で、茶と桑、また米も栽培するつもりだったようである。会津藩のサムライたちは勤勉に働いた。茶の木は育ち、シュネルは1870年のカリフォルニア州フェア(見本市)にそれらを出展する計画まで練っていたという。翌年シュネルとその妻（日本人）との間に2人目の娘が誕生した。この子が、アメリカ本土で生まれたNisei（二世）第１号ということになる。約１年間と少し、このコロニーは持続した。そして崩れた。原因はよくわからない。日照り、資金不足、あるいは病の流行によるものとも言われている。1871年4月、行き詰まったシュネルは日本で金策をして戻って来る、と言い残したが、二度と帰ってこなかった。あとには言葉もわからず、生きる糧もないまま途方にくれた日本人入植者たちだけが残った。若松コロニーは崩壊した。そして、若松コロニーの全てが歴史の闇の中に永遠に葬られたかのように見えた・・・。

　 1882年、排華移民法施行後、少しずつ減っていく中国人に代わる安価な労働力として、いつしか日本人がその後を埋める形となり、1890年の段階でアメリカ本土に住んでいた日本人は2039人になっていた。1918年、第一次世界大戦が終わると、日本人移民が次第にカリフォルニアに増えていった。その3年前、1915年、若松コロニーの崩壊からすでに4５年の月日が流れていた。当時、若松コロニーのことを知っていた日系人は一人もいなかった。ゴールド・ヒル（コロマ近く）の草地でとある墓石が発見された。そこには日本語でこう書かれていた――「おけいの墓」。そして英語で、「1871年没、19歳、日本人の少女」と。日系新聞「日米」の記者、竹田雪城がこの「おけい」の調査に着手した。そんな時期に、わずか19歳で、祖国から遠く離れたこのアメリカで亡くなった日本人がいたのか。それも女性である。これが本当であれば、あるいは彼女はアメリカで初めての日本人女性移民かもしれない。困難な調査の末、記者は彼女が住み込みで働いていた白人家庭を探し当てた。ビーアカンプ（Veerkamp）というこの家の子孫は、おけいを覚えていた。それだけでなく、若松コロニーのことも。ここに、歴史に埋もれていた若松コロニーの存在があきらかになったのである。おけいはシュネル家の子守として彼らについて渡米した。コロニーの経営が失敗に終わったあと、ビーアカンプ家に引き取られ、使用人として働いた。勤勉でしとやかなおけいを、家族は愛した。が、１年足らずで彼女は体を崩し、はかなくも亡くなってしまった。おけいとともにビーアカンプ家に世話になっていた桜井松之助が彼女の墓を立てようだ。彼もまた、若松コロニーの入植者一員だった。松之助はその後30年生きた。他に名前がわかっているのは、増水邦之助という人物である。彼は後に黒人女性と結婚して3人の子をもうけ、サクラメントで魚屋を経営した。1915年にゴールド・ヒルに近いコロマで亡くなり、その地に墓が残っている。現在、彼の子孫がサクラメントに多くいることがわかっている。その他の入植者たちの行方は知れない。彼らは各地に散り散りになり、やがて忘れ去られていった。

アメリカン•リバー•コンサーバンシー
　現在、アメリカン•リバー•コンサーバンシー (アメリカ川管理委員会,American River Conservancy) という組織が若松コロニーを復活させるために活動している。アメリカン•リバー•コンサーバンシーは、中央シエラネバダ麓にあって、20年以上にわたり、より良い生活のために河川や土地を保護してきたＮＰＯ法人である。自然や文化を保護し、倫理の向上に努め、自然と調和した優しい環境作りに努めている。

　彼らの活動の中に若松コロニーを復活させるプロジェクトがある。それはワカマツ・ティー・アンド・シルク・コロニー・ファーム・プロジェクト（若松コロニー農場計画、Wakamatsu Tea and Silk Colony Farm Project）と呼ばれ、アメリカン•リバー•コンサーバンシーは日系アメリカ人市民連盟（JACL）、福島県人会、米国土地管理局、カリフォルニア米(まい)委員会と共同でビーアカンプ家の歴史的価値のある土地（２７２エーカー）を購入した。それは西エルドラド郡のプラサーヴィルとコロマとの間にある。住所は、ゴールドヒルコールドスプリングロード９４１である。

　重複するが、アメリカン•リバー•コンサーバンシーによると、1869年に、ジョン•ヘンリー•スネルに率いられた日本人のグループが日本国福島県会津若松からカルフォルニアにやってきた。彼らは、カリフォルニア州のゴールドヒルに定住し、ワカマツ・ティー・シルク・ファーム・コロニー、通称“若松コロニー”を建設するのが目的だった。ジョン•スネルや彼の日本人の妻と一緒にサンフランシスコに到着した日本人たちは、間違いなく米国に初めてやってきた移民だった。サクラメントに到着した若松グループは、チャールズＭグランナー(Charles M. Graner)から１６０エーカーの土地を購入し農業集落を作るためにゴールドヒルに向かった。彼らは日本から桑、繭、茶樹、タケノコなどの生活に有用な植物だけでなく、調理器具、刀剣、会津若松藩の家紋が付いた大きな旗まで持ってきていた。後に、これらのものはビーアカンプ(Veerkamp)家から州立公園(the State Parks)に寄贈され、現在も大切に保管・展示されている。

　若松コロニーは数年間は苦労して存続はしていたが、その後、水の供給、充分な資金、労働争議などに悩まされ、彼らのうちの二人が若松コロニーを離れ、ビーアカンプ(Veerkamp)家に雇われた。アメリカン•リバー•コンサーバンシーはこれらの最初の日本人入植者と日系アメリカ人のカリフォルニア州での貢献に敬意を表すために記念公園や役に立つ施設を併設した若松コロニーの復活を計画している。そのために、シエラネバダ•コンサーバンシーと米国自然資源保全局の助成金、民間の寄付、ブリッジ•ローンで資金を集めてビーアカンプ(Veerkamp)家から上述の２７２エーカーの土地を購入したのである。現在、若松コロニーの復元に向けて湿地を修復したり、生垣を設置したりと少しづつ復元されている。夢が現実になりつつあるのだ。

（アメリカ川―アメリカの原点、日系人の原点）

　かつて日本の友人にアメリカ川の写真を見せた時に予想外の答えが返ってきた――、「アメリカ川というから大河を想像していたらこんなに小さな川なの？」と。確かに、その言葉通りの小さな川であるが、この川こそアメリカを揺り動かし、新しい時代の転機となったゴールドラッシュを生んだ川である。ジョン万次郎もこの川で帰国費用を稼いだし、日本初の日系人の入植者もこの川の近くを開拓した。コロマも含めたアメリカ川はアメリカの原点であり日系人の原点でもあるのだ、とするとアメリカ川というのは尤もな名前であるが、以外にもその命名にアメリカ人は関与していない。すでにメキシコ統治時代に「Río de los Americanos(スペイン語で“アメリカ川”)と呼ばれていた。当時のメキシコ人はこの小さな川が後にアメリカを揺り動かす「大事件」を起こし、日本も含め世界中から大勢の人たちが夢を託した川になることを予想してのことだったのか――、今となっては知るすべもない。

サクラメントにて
松　虎
平成24年10月25日

参考
Coloma, California
http://en.wikipedia.org/wiki/Coloma,_California
James W. Marshall
http://en.wikipedia.org/wiki/James_W._Marshall
John Sutter
http://en.wikipedia.org/wiki/John_Sutter
Wells Fargo
http://en.wikipedia.org/wiki/Wells_Fargo
かりかりカリラム
http://kari-kari.net/
ジョン万次郎
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B3%E4%B8%87%E6%AC%A1%E9%83%8E
日系移民の歴史
http://www.pioneerhonor.jp/pioneer/us/index.html
American River Conservancy
ttp://www.arconservancy.org/