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ベトナムの中秋節
令和3年9月21日

MID-AUTUMN FESTIVAL IN VIETNAM
September 21, 2021




  中秋の名月になった。
日本では月の中で兎が餅をついているといわれるが、
どうして餅つきなのか。
インドから中国に伝わった「ジャータカ神話」が、
中国では、兎が杵と臼で不老長寿の薬を作っていると考えられた。
それが更に、日本に伝わって、諸説はあるが、
「満月」は「望月」という異称もあるので、
「望月」が「餅つき」に変化したということだそうだ。
ベトナムでは、月に「クオイおじさんがいて、
ガジュマルの木の下に座っている」と考えられている。
では、どうしてクオイおじいさんとガジュマロなのか?
これはベトナムの昔話「クオイおじさんとガジュマルの木」に由来している。


「クオイおじさんとガジュマルの木」

昔々あるところに、クオイ(Cuội)という名のきこりがおりました。
ある日のこと、いつものようにクオイが斧を担いで森の奥へ入っていくと、
小川の近くで4匹の子供のトラがじゃれあっているのが見えました。
クオイは、トラのそばまで下りていくと斧を振り回して、4匹のトラを打ち殺しました。
しかし、そのとき母トラが戻ってきてしまいました。
背後からうなり声が聞こえたので、クオイは斧を捨ててあわてて高い木によじ登りました。
木の上から下を見ると、母トラは子供の亡骸の前を走り回っていましたが、
しばらくするとクオイが隠れている近くに生えている木の根元までやってきて、
葉っぱを取り、噛み砕いてトラの子供たちの口に含ませています。
すると、子供たちが尻尾を振って生き返ったので、クオイはたいそう驚きました。
トラたちがいなくなるのを待ってクオイは木から降り、
その珍しい木を根っこごと切って持ち帰りました。

帰り道で、クオイは物乞いのおじいさんが草むらの中で死んでいるのを見つけました。
クオイは直ぐに何枚かの葉をちぎって口に入れ、噛み砕いておじいさんの口に入れました。
するとどうでしょう、おじいさんは目を開けて起き上がったのです。
珍しい木を見て、おじいさんがどうしたのか尋ねてきたので、
クオイはこれまでのいきさつを話して聞かせました。
話を聞き終るとおじいさんはこう言いました。
「ああ神様! この木はまさに『よみがえり』の木じゃ。
神様がお前に世界を救わせしめようとしているのじゃ。
お前はこの木を大切に世話しなさい。
ただし、決して汚い水をやってはならんぞ、木が空へ飛んでいってしまうからな」
そして、おじいさんは杖をついて行ってしまいました。
クオイは木を背負って家に帰り、庭の東の隅にその木を植え、
おじいさんの言葉を思い出して、毎日井戸から汲んだきれいな水をかけてやりました。

その日からクオイは、この貴重な薬木を用いて多くの人を救いました。
誰かが息を引き取ったという知らせを聞くと、
クオイは木の葉を持って出向き、命を救ったのでした。
「クオイは不思議な術を持っている」という噂があちこちに広まりました。
ある日、クオイが川の中を歩いて渡っていると、一匹の死んだ犬が浮かんでいました。
クオイが犬を川岸に上げ、例の葉を噛んで犬の口に含ませると、犬は生き返りました。
犬はクオイにまとわりつき、感謝の気持ちを表しました。
その日からクオイとこの賢い動物は友達になったのです。

またある日のこと。隣村の金持ちの老人が大慌てでクオイのところにやってきて、
先ほど足を踏み外して溺れ死んでしまった娘を生き返らせて欲しいと懇願しました。
クオイは快諾して、家から例の葉を持ってきて与えました。
するとすぐに頬に赤味がさし、娘は生き返りました。
クオイが命を救ってくれたことを知ると、娘はクオイの妻にして欲しいと申し出ました。
金持ちの老人も喜んで娘をクオイに嫁がせました。
クオイ夫婦は穏やかに暮らしていましたが、クオイが留守にしていたある日、
突然怪しい男たちがクオイの家にやってきました。
クオイが「よみがえりの術」を持っていると知って、いたずらをしてやろうと思ったのです。
そして、クオイの妻を殺し、内臓を取り出して川に投げ捨ててしまいました。
クオイが家に帰ると妻は死んでおり、何度も例の葉を口に含ませましたが、生き返りません。
内蔵がないのにどうして生きることができるでしょう。

主人が嘆き悲しんでいるのを見た犬は、
主人に「奥さんの内臓の代わりに私の内臓を入れててください」と頼みました。
クオイはそんなことをやったことはありませんでしたが、
犬の内臓を人の内臓の代わりにしたらどうなるかやってみることにしました。
すると、妻は以前の若く美しいままに生き返ったのでした。
さらにクオイは土で内臓を作り犬の腹に入れてみると、犬もまた生き返りました。
夫婦は以前にも増して互いに深く結びつきました。
しかし、この日からクオイの妻の性格はすっかり変わってしまいました。
言うそばからすぐに物を忘れてしまうので、いつもクオイをいらいらさせました。
「小便は庭の西でしなさい。東でやってはいけないよ、
木が飛んでいってしまうから」と何度注意したかわかりません。
でも、クオイの妻は聞いたそばから忘れてしまうのです。
ある日の夕方、クオイが森からまだ戻っていない時間に、妻は庭に出て、
夫の忠告などすっかり忘れて、大切な木に向かって小便をしてしまいました。
すると、地面が揺れて木を大きく震わせ、風がゴーゴーと吹きつけました。
根っこが勝手に抜けてしまった木は、あてもなく空を舞い始めました。
ちょうどそのとき、クオイが家に帰ってきました。
木が宙を舞っているのを見たクオイは、
担いでいた斧をほうり投げて飛び上がり、かろうじて木の根っこをつかみました。
しかし、木はどんどん高く舞い上がり、なすすべもありません。
クオイは木とともに、月まで飛んでいってしまいましたとさ。 (おしまい)











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